2022.12.25
不動産売却における委任状の書き方を解説 | 注意点や必要書類も紹介
不動産売却を検討しているが、「遠方にあって手続きを進めにくい」「仕事の都合で時間を確保しにくい」という悩みはありませんか?
実は代理人を立てることで、不動産の所有者本人が交渉や契約に立ち会う必要はなくなります。
この記事では、不動産売却で代理人を立てられるケースや立てられないケース、委任状の書き方などを解説します。
目次
不動産売却における委任状の基礎知識
不動産売却で委任を検討する前に、まずは委任状と代理人の定義を確認しておきましょう。
委任状と代理人の定義を曖昧に覚えていると誤った解釈をしてしまい、不動産売却でトラブルが起こってしまうかもしれません。
不動産売却の委任状とは
委任状とは、当事者がもつ一定の法律行為を受任者に委任することを証明する書類です。
不動産売却でいうと、不動産の売買契約を受任者に委任したことを証明する書類を指します。
「仕事の請負契約と同じではないの?」と思われるかもしれませんが、委任状は法律行為を委託する場合の書類のため、請負契約とは異なります。
不動産売却の代理人とは
代理人とは、委任状によって一定の法律行為を委任された受任者です。
不動産売却のケースでいうと、不動産の所有者に代わって売買契約をする受任者を指します。
委任状で法律行為を委任された代理人は、売主本人が認めた範囲内で代理人は売主本人と同じ権限を持ちます。
このとき代理人は売主本人の意志を確認せず、自分の判断で法律行為をおこなうことができるのが特徴です。
代理人には以下の3種類があります。不動産売却での代理人は、任意代理人となります。
- 法定代理人:法律に基づいて委任される代理人
- 任意代理人:本人の意志で委任される代理人
- 復代理人:代理人の権限の範囲でさらに指名された代理人
不動産売却において委任状で委任できるケース
実は、どのような場合でも委任状で不動産売却を委任できるわけではありません。
では不動産売却において委任状で委任できるケースは、一体どのようなケースなのでしょうか。
ここでは委任状で委任できる4つのケースを紹介します。
不動産売却のための時間を確保できないケース
仕事の都合や療養のため不動産売却にかかる時間を確保できない場合、委任状で売買契約を委任できます。
不動産売却では、不動産の査定や内覧への対応、売買契約の締結など6カ月程度の時間がかかります。
そのため、時間を確保できない場合は不動産売却が難しくなるでしょう。
代理人を立てることで、時間を確保できない場合でも不動産売却の手続きを進めることが可能です。
不動産売却の必要期間について、詳しくは「不動産売却に必要な期間について解説|売却期間を短縮するコツも紹介」をご覧ください。
売却予定の不動産が遠方にあるケース
売却したい不動産が遠方にあったり所有者が海外に住んでいたりするケースでは、親族や物件の近くの弁護士・司法書士事務所に委任できます。
所有者が高齢で不動産のある場所まで移動が難しい場合も、代理人を立てることが可能です。
不動産の所有者が複数人いるケース
不動産の所有者が複数いるケースでは、所有者全員で交渉・契約するのは難しいため、代理人を1人立てて、不動産売却の手続きを進めてもらいます。
所有者が複数いる場合、原則として全員の立ち合いの元で交渉や契約をする必要があります。
しかし、現実的にスケジュールを合わせるのは難しいため、所有者の中から代表者として代理人を1人選出するのが一般的です。
委任状では不動産売却を委任できないケース
前項では、委任状で不動産売却が委任できるケースを紹介しましたが、一方で委任状があっても不動産売却を委任できないケースもあります。
未成年
不動産の売主が未成年の場合は、委任状による代理人を立てることができません。
未成年は大人と比べて自分自身で判断する能力が低く、不利益な契約を結ばされてしまう可能性があるためです。
未成年が所有する不動産の売却手続きを委任する場合は、未成年後見人や親権者が法定代理人として、未成年者の代わりに手続きをおこないます。
成年被後見人
不動産の所有者が成年被後見人である場合も、委任状による代理人は立てられません。
成年被後見人とは、精神上の障害により判断能力が不十分であると家庭裁判所から審判を受けた人です。
実際には「精神上の障害」だけでなく、認知症や加齢、その他の病気などで判断能力が低いと、家庭裁判所から審判された人を指します。
未成年者の場合と同様に、法定代理人である成年後見人が代理人となり、不動産売却をおこないます。
売主が代理人に委任した場合の不動産売却のリスク
不動産売却を代理人に委任すると、遠方の不動産でも売却できるメリットがあります。
しかし一方で、売主にも買主にもリスクがある点に注意しましょう。
売主のリスク
売主が代理人に委任した場合、売主自身にもリスクがあります。
委任状で代理人を立てることは、不動産の売買に関する権利を代理人に与えてしまうということです。
前述のとおり、代理人は委任された範囲内で売主本人と同等の権限を持ちます。
つまり、代理人の判断で売買契約を結べてしまうため、売主の意図と異なる契約を結んでしまう可能性も考えられます。
買主のリスク
売主が代理人を立てている場合、買主のリスクとして、その代理人が偽物である可能性も考えられる点が挙げられます。
委任状が偽造されていた場合、不動産の所有者の知らないところで売買契約が結ばれ、それを知らない買主は偽物の代理人にお金を支払ってしまうリスクがあります。
売主が代理人を立てている場合、必ず代理人の本人確認をおこないましょう。
不動産売却での委任状のひな形
不動産売却のための委任状には、決まったテンプレートはありません。
とはいえ、必要十分な内容を盛り込むため、一定の項目を記載する必要があります。
委任状
委任者_____(以下「甲」という)は受任者_____(以下「乙」という)を代理人とし、下記の条件で甲が所有する不動産の売買契約を結ぶ権限を委任します。
記
1.不動産の表示項目
(土地)
所在:
地番:
地目:
地積:
(建物)
所在:
種類:
構造:
床面積:
2.売却の条件
売買価格:金_____万円
手付金の額:金_____万円
引渡しの予定:令和___年___月___日
契約解除時の違約金:売却価額の___%相当額以上で、協議の上決定する
公租公課の分担起算日:引渡日
所有権移転登記申請手続:
- 甲は売買代金の受領と同時に、買主への所有権移転登記申請続きをおこない、そのための書類をあらかじめ_____司法書士に預託しておき、乙が甲の代理人として準備と当日の手続きをおこなう。
- 乙は前項の所有権移転登記申請時に、買主に対して不動産の引き渡しをおこなうものとし、図面やその他必要な図書および鍵の引き渡しをあらかじめ甲から受ける
3.委任状の有効期限
令和___年___月___日
以上
甲
住所
氏名
乙
住所
氏名
不動産に関する表示項目
不動産売却の委任状には、登記事項証明書に沿って、売却する不動産の表示項目を記載します。
具体的には、以下の項目です。
土地
- 所在
- 地番
- 地目:土地の用途
- 地積
建物
- 所在
- 種類:建物の用途
- 構造
- 床面積
地目は「宅地」、建物の種類は「居宅」など、用途を記載します。
構造については、たとえば「木造2階建て」のように、建物の作りと階数を書きましょう。
不動産売却の条件
次に、不動産売却の条件を記載しましょう。
記載する条件は、主に以下のとおりです。
- 売却価格
- 手付金額
- 引渡予定日
- 契約解除時の違約金額
- 所有権移転登記申請手続き
所有権移転登記申請手続きに関する条件については、テンプレートを参考に、より具体的に記しておくことが重要です。
委任状の有効期限
不動産売却のための委任状には、有効期限を設けておくことをおすすめします。
いつまで不動産売却に対する権限が与えられるのか、明確にしていないとトラブルになるケースもあるためです。
一般的に、委任状の有効期限は3カ月を目安とします。
ただし、手続きは3カ月では終わらないことがあるため、「甲・乙の合意のもと、さらに3カ月更新できる」と記載しておくとよいでしょう。
不動産売却の委任状作成時の注意点
ここでは、委任状を作成するときに知っておきたい注意点を紹介します。
委任する内容を限定して明記する
委任する内容を限定せず委任状を作成してしまうと、代理人の権限が強くなり、トラブルにつながる可能性があります。
冒頭で説明したとおり、代理人は売主本人の意志を確認せず、自分の判断で不動産売却の手続きを進めることができます。
ただし、それは委任状で指定されている範囲内での権限です。
つまり、委任状で「こことここは代理人に権限を与えます」と記載しておけば、その範囲を超えて代理人は権限を発揮できません。
そのため、委任状では委任する内容を限定して明記しておくことが大切です。
「一切の件」とは記載しない
委任状には、「一切の件」と記載してはいけません。
そもそも「一切の件」とは、「不動産売却に関するすべての件」を指します。
つまり、該当の不動産売却に関する代理人の権限が絶対になってしまうということです。
「不動産売却についてあまり知識がないから、代理人にすべて任せよう」と思いたくなるかもしれませんが、後々のトラブルを避けるためにも、「一切の件」と書くことはおすすめできません。
突発的に、委任状に記載のない事態が生じた場合に備え、以下のように記載しておくとよいでしょう。
委任状で定めていない事項、および売却条件の履行に変更が生じる場合は、その都度委任者と受任者で協議して決める。
押印は実印を使う
委任状に押印するときは、実印を使用します。
前述のとおり、委任状には決まった書式がないため、押印もホームセンターや100円ショップで購入した三文判やシヤチハタでも問題ありません。
しかし、実務においては委任状と一緒に印鑑証明書を提出することが一般的であるため、押印には実印を使用しましょう。
捨印は押印しない
捨印とは、書類の余白部分に押印することで、内容に訂正があるときの訂正印に使用するためのものです。
委任状に捨印を押してしまうと、代理人によって自由に委任状の内容を訂正できてしまいます。
代理人が勝手に委任状を訂正することで、委任者が望まない不動産取引となる可能性があるため、捨印は押さないようにしましょう。
不動産売却の委任状と一緒に用意する必要書類
委任状で代理人を立て、不動産売却をおこなう場合は、委任状のほかに以下の書類を準備します。
- 印鑑証明書
- 住民票
- 本人確認書類
それぞれの必要書類について、詳しく解説します。
印鑑証明書
印鑑証明書は、不動産の所有者(委任者)と代理人のものが必要です。
売買契約時において、発行から3カ月以内のものを準備しましょう。
そもそも印鑑証明書とは、印鑑で個人や法人を証明する制度です。
市区町村で印鑑を登録すると、印影と登録者の住所や氏名などの情報が記載された印鑑証明書を発行してもらえます。
不動産売却の委任状には決まった書式がなく、印鑑証明書は必ず要るものではありませんが、買主側は印鑑証明のない委任状に不信感を抱く可能性もあります。
そのため、委任状の押印は印鑑証明できる実印を使いましょう。
住民票
住民票も、印鑑証明と同様に委任者と代理人のものを用意しましょう。
印鑑証明書と同様に、売買契約時に発行から3カ月以内の住民票が必要です。
買主側からすれば、委任状が本物なのか、このまま取引を続けても安全なのかを証明してほしいもの。
委任者と代理人の住民票を提出することで、売主本人が正式な手順で代理人を立てていることを証明できます。
本人確認書類
代理人は本人確認書類も必要です。
繰り返しになりますが、委任状や住民票があるからといって、代理人が本物であるかは売主側には分かりません。
本人確認書類を準備することで、売主が指名した代理人であることを証明できます。
不動産売却で委任状を作るときは記載内容に注意
不動産売却で代理人を立てて手続きを進めたいときは、委任状が必要です。
委任状を書くときは、代理人の権限を限定して記載しましょう。
代理人の権限を指定しない場合、不動産売却を代理人が自由におこなえる状況になってしまうため、トラブルが発生する可能性があります。
売主の意志に関係なく、代理人が売買契約を結んでしまう可能性もあるため、委任状に記載する内容は重要です。
この記事で紹介したテンプレートを参考に、委任状を作ってみましょう。
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